よみかき勘定

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【読書】イスラーム化する社会 | 大川玲子

イスラームについて

911やISなどの影響で、あまりいい印象をお持ちでない方も多いし(むしろ北朝鮮と同じくらいの勢いで)独裁的、禁欲的なイメージが強いイスラーム教かと思います。

 

ただ、私は偶然にも「元夫がモロッコ人で、ムスリムだった」という友人がいて、彼女がISなど話題にも上がっていなかった6年ほど前、内輪の勉強会の時に「結婚していた時は意識しなかったけど、改めてイスラーム教について知りたいと思って」とイスラームの教義や生活について勉強したことがありました。実際に夫の実家に行った際の体験を話してくれてから、イスラームについての見方がずいぶん変わったこともあり、またISなどの事象が発生した現在、イスラームを取り巻く世界については気になっていたので手に取った1冊。

イスラーム化する世界 (平凡社新書682)

イスラーム化する世界 (平凡社新書682)

 

中東でムハンマドが教えを説き、現在では世界の1/3ほどを占めるほどになったイスラーム教徒。とても意外なのが、そんな砂漠地帯で生まれた教えが、風土を超えて土着の宗教から改宗させるまでのインパクトがあるということ。それだけ、土地や気候に不遇の人の弱者が救われる、大衆のための宗教なのかもしれません。

イスラームの教義について

もともと友人から聞いていたイスラーム教の内容で印象に残っていたのが以下のもの。(相違があったらごめんなさい)

・(教義に背く)罪を犯したのであれば、それを自分のできる範囲で償いなさい

・貧しく、償いができないのであれば、もっと貧しいものを救いなさい

・貧しいものを償うことができなければ、施しを受けなさい

・夫は妻を満足させ、妻は夫を満足させることに努めなさい

人間とは弱く流されやすい生き物なので、罪は犯してしまうもの。それを前提に、その罪を償うこと、お互いによりよく生きるために努力しなさい、という教義の内容に感じました。

前述の彼女が旦那さんのモロッコの実家に出向いた際、旦那さんは皆昼間仕事に出かけてしまい、女性達だけが残ったリビングでモロッコ語は全くわからなかったものの、「男性達は昼間一生懸命仕事してて私たちは家にいる。とても楽させてもらってる」「幸せよねえ」的な雰囲気だったと。ムスリマはヒジャブや全身を覆う服装で生活が不便ではないのか、女性の自立と自由を奪ってないかと思っていたのですが、異教徒である友人にヒジャブ被せてくれたりとか、家族を大切にするイスラーム教義前提の生活ではありますが、すごく穏やかで幸せそうなイメージが伝わりました。

そんな話を聞いていたので、原理主義や一夫多妻制だけが強調されて報道されるのはなんだかなあと。

 

イスラームジェンダー、政治

この本の中では近代のイスラームについて、それぞれの活動家や、現在進行形のイスラーム教についての研究やそれについての提言を紹介しています。

意外だったのが、ジェンダーについて提言している女性がいること。

アフリカ系アメリカ人で、不遇の少女時代を経てアメリカ国内でのイスラーム教の中でも地位を得たアミーナ・ワドゥード。

もともとイスラーム教自体が女性の肌を露出させない、家庭に入っていることを推奨するイメージがあったため、ジェンダー的解釈を提議する存在が発生すること自体がとても意外でした。彼女のクルアーンの解釈はとても興味深く、イスラームの中でも賛否両論あるようですが、それでもこの多様化の時代の中で、柔軟に生き残っていく宗教としては必要なことではないかなと。

 

この本の中で紹介されていたムスリム専用SNSなど、宗教としては閉鎖性が高いと思われてしまいがちなイスラム教ですが、それでもそれぞれが置かれた立場から相談できたりする交流の場があったり、教えに対してそれぞれが向き合う環境があるというのもこの宗教の特徴かもしれません。(以下は本で紹介されていたSNSではありませんが)

forbesjapan.com

でもこれってさー、日本で仏教神道についてのSNSとかある?

みんな御朱印もらいに全国各地神社仏閣に向かうけど「うちは臨済宗で彼の家は浄土真宗なんです」とか、「地域によって玉ぐしの扱いが違うのに、全国統一にするのはおかしい」とかSNSで相談ってある?ムスリムムスリマの場合には絶対数も置かれている立場も違うので、またそこは違うお話でしょうが、よくあるのは彼氏・彼女が〇〇学会なので結婚どうしようかだよなー、なんて思うと、その国民性が見えてくるなー、なんて思ってしまう。

 ムスリムムスリマの場合には絶対数も置かれている立場も違うので、またそこは違うお話かと思いますが、日本に住んで生活していると、なかなか友人にムスリムムスリマがいるという方も多くないかと思います。それが誤解を生む一つではないのかなと。

ムスリムムスリマも「ワイルドムスリム」って自称しちゃうような、日本の仏教徒的にそんなに熱心じゃない子達も多いし、メジャーとは思われているキリスト教よりも大きく拡大している宗教についてもうちょっと知っておいたほうがいいのかもとは考えます。

特に「世界のどこかでISに遭遇してもクルアーンの一説唱えたら大丈夫」的なネットのトンデモ知識真に受けたまま海外に出かけてしまわぬように、イスラーム教がもっと理解されたらなと思います。